久留米大学医学部附属臨床検査専門学校 2年生
生理機能検査学実習 期末試験問題 (2001/9/12, 2005/9/6)

回答例
出題者: 病院情報部 和田豊郁
【1】心電図を記録するために必要な準備,記録時,記録後の注意点について,以下の語句を用いて説明しなさい.(配点:70点) 心電計 被験者 電極 筋電図 交流障害
心電計 被験者 電極 筋電図 交流障害
 心電図を正しく記録するためには,日頃からの心電計やケーブル類,電極の手入れが大切である.
 心電計本体のチェック項目としては,校正用ボタンを押した時に正しく1mVが記録されるか,波形がかすれたりしていないか,紙送り速度にムラや誤差があったり異音がしたりしないか,誘導切り替えスイッチなどの作動が正しいか,など.ケーブル類は,破損しかかっているところはないか,端子に錆が生じていないか,心電計本体とはきちんと接続できるか(接触不良はないか)など,一旦本体から取り外してチェックを行う.こうすることにより,端子同士がこすれあうために接触が改善し,記録中に接触不良が生じることを未然に防ぐことができる.電極は破損しかかっていないか,清潔に保たれているか,錆が生じていないか,誘導コードの端子との接触不良はないか,確かめておく. 心電計には筋電フィルター,交流ハムフィルターなどが装備されているが,R波などの棘波の波高が低くなるなどの影響があるため用いないで済むよう,筋電図やハムが混入しないように注意することが大切である.
 電源からの交流障害を防ぐためには充電池を使用すればよいが,被検者の安全のため,アース接続が必要である.交流式の心電計では電源に3Pコンセントを使用すれば確実にアースをとることができ簡便である.また被検者の寝ているベッドと心電計のアース端子をも接続し,一点アースとすると電磁誘導や交流障害を受けにくくなる.木製のベッドの場合には絶縁シートを用いると良い.
 電源コンセントから電気を供給する電気器具は,電源スイッチを切るだけでなく電源ケーブルをコンセントから抜かねば電磁誘導を生じる可能性がある.距離が遠ければ影響は少なくなるので,照明器具やコンピュータ,電話などから遠いところで心電図を撮るようにする.被検者が微量輸液ポンプを使用中の場合は輸液ポンプの電源ケーブルを電源コンセントから抜かないと電源スイッチを切るだけでは交流障害を防ぐことができない.誘導ケーブルは電源ケーブルと近付けないようにすることが望ましいが,どうしても交差させる必要がある場合にはなるだけ空間的距離を取るようにするが,十分な距離が取れない場合には直交させる方が交流障害は受けにくくなる.
 記録時の注意点としては,被検者が緊張すると全身に力が入り,筋電図が混入することがしばしばあるため,特に心電図検査が初めての場合は,体に電気を流す検査ではないなど検査内容を十分に説明し,リラックスしていただくことが大切である.四肢の関節可動域が減少している場合にはバスタオルを丸めたものなどを用いて筋の緊張を取る.力を抜くように指示しても返って緊張することが多く,一旦四肢を屈伸させると筋電図が減少することがある,被検者が可動性のある金属を身につけていると微妙なノイズが入ることがあるので,ネックレスやブレスレット,時計などははずしていただく.
 心電図の電極は電極装着部位の皮脂をアルコール綿を用いて取り除き,接触抵抗を減じてから装着する.胸毛が濃い場合や,老人など皮膚にたるみがある場合には吸盤式の胸部電極は外れやすいため,接着式の電極を用いることも考える.
 心電図は最低5心拍撮るようにし,不整脈が見られる場合には記録時間を延長する.心室性期外収縮や心房性不整脈などの出現頻度を見る場合には紙送り速度を5mm/s や 10mm/s など,標準より低速で1分間または3分間の記録を追加する.Wenchebach型U度の房室ブロックや房室解離など,PQ間隔が変化するような不整脈では50mm/s や 100mm/s など,標準より高速な記録を追加するとPQ時間の計測が容易になる.P波の形が変化するような不整脈では,P波の良く観察できる誘導で感度を上げた記録を追加すると良い.いずれにしても,12誘導心電図を撮る際には標準感度,標準速度での記録は省略してはならない.また,危険性の高い不整脈を検出した場合には速やかに医師への連絡が必要である.
 心電図を撮り終わったら,速やかに被験者名,検査日などを記した台紙に心電図を貼り,検査結果の取り違えを防ぐ.感熱紙はアルコールと反応して黒変するため,酒精綿とは接触させないように注意する.外した電極は常に清潔に保ち,付着したペーストは電極が錆びたり不潔になったりしないように除去しておく. ケーブル類はもつれを取り,次の記録に備える.記録紙切れに注意し,心電計のそばには予備の記録紙を用意しておく.
【2】心エコー図について以下の語句を用いて説明しなさい.(配点30点)
Mモード Bモード断層 セクタ型 心機能 計測
 心エコ-図は超音波を用いて心臓の動きや血流速度を計測し心機能の評価を行ったり,心臓弁膜,心腔,大動脈の起始部などを描出し,計測を行うための検査法である.
 超音波を発信し,体内の構造物の境界面で反射してきたエコーを受信する装置をプローブ(探触子)と言うが,心臓は胸郭内にあるため,肋間または食道内からアプローチする必要があることから,2次元の断層像を得るためには扇形(sector)に超音波を発するセクタ型のプローブが用いられる.
 断層心エコ-図は通常Bモード断層と呼ばれる.Bモードとは縦軸にプローブから組織までの距離(深さ)をとり,超音波の反射信号の強さを輝度(brightness)に変調して表示するもので,セクタ型のプローブでは1平面上で扇形にスキャンさせ断層像を表示する.かつては断層心エコ-図ではプローブから遠くなるにつれて解像度が低下してしまう欠点があったが,最近の機器では克服されている.
 Mモード心エコー図法は,細い超音波ビームの方向の心臓の構造物の運動や機能的変化を心電図を時間軸とし,心周期との関係を検討するものである.
 検査の手順は,まずBモード断層にて心臓各部位の動きを観察することからはじめるが,超音波ビームが心臓内の構造物に垂直に当たり,各部位のオリエンテーションがつきやすい胸骨左縁左室長軸断層像を最初のアプローチとする.また,この断層面をガイドとして大動脈・左室,僧帽弁,左室のMモード心エコ-図を得る.
 Mモードでは右室流出路径,大動脈径,左房径,心室中隔厚,左室後壁厚,左室拡張末期径,左室収縮末期径などを計測し,心機能の評価に用いられる.
 次いで短軸像の観察を行う.その後心尖部からのアプローチを行い,心尖部左室長軸断層,四腔断層,二腔断層にて壁運動の観察を行う.
 必要があればドプラー法やカラードプラー法を追加し,弁口を通過する血流速度の計測や弁の逆流の評価を行う.