2000年久留米大学医学部附属臨床検査技師専門学校
     「理解度チェック」の解答・解説

1−1. 「心電図」をあらわす英語の略語はどれか.
   a.UCG   b.ACG   c.ECG   d.EKG   e.EEG

 答: c
 解説
  a. ultrasonic cardiogram (心エコー図)
  b. apexcardiogram (心尖拍動図)
  c. electrocardiogram (心電図)
  d. Elektrocardiogram (ドイツ語の心電図)
  e. electroencepharogram (脳派)

1−2. ガルバノメータが使用されているものはどれか.(1つとは限らない)
   a.Holter型心電図記録器   b.サーマルヘッド式心電計
   c.生態情報モニタ   d.熱ペン直記式心電計   e.写真式心電計

 答: d. e.

1−3. 心電計に求められる周波数特性はどれか.
   a.DC〜100Hz   b.10Hz〜100Hz   c.0.5Hz〜200Hz
   d.200Hz〜800Hz   e.20Hz〜20KHz

 答: c.

1−4. 心電図の記録速度のうち,基本となるものはどれか.
   a.5 mm/秒   b.10 mm/秒   c.25 mm/秒   d.50 mm/秒
   e.100 mm/秒

 答: c.

1−5. 心電図の標準の記録感度はどれか.
   a.1mV=1 mm   b.1mV=2.5 mm   c.1mV=5 mm
   d.1mV=10 mm   e.1mV=20 mm

 答: d.

1−6. 心電計について正しいのはどれか.(1つとは限らない)
   a.弁別比は100程度あればよい.
   b.校正用ボタンを押して一番大きく振れた高さを100%とする.
   c.時定数とは校正用ボタンを押してから基線に戻るまでの時間である.
   d.時定数は3.2秒以上必要である.
   e.時定数が大きいほど心電図波形は小さくなる.
   f.誘導電極は金属のたわしでいつもピカピカに磨いておく.
   g.誘導電極をエージングすると分極電圧は小さくなる.
   h.誘導コードの色による弁別は万国共通である.
   i.心電図用ペーストはたくさん付けるようにする.
   j.木製のベッドで心電図を撮るときにはベッドのアースは不要である.

 答: g. j.
 解説
  実際の信号と交流障害波が同じ強さで入力されても実際の信号だけ増幅され,
  交流障害波は消去されるのが理想である.(弁別比:無限大)
  心電計には弁別比1000以上が求められる.
  時定数は,校正用ボタンを押して0.04秒後の振れを100%として,
  その1/eの高さまで下がるのに要する時間である.
  時定数が小さいと周波数の低い波形が歪むため,T波の振幅が小さくなったり
  ST部分が偏倚したりすることがあり,最低でも3.2秒以上必要である.
  誘導電極は汚れていると接触抵抗が大きくなるが,新しい金属面は分極電圧が高くなるため,
  新しい電極や電極表面を磨いた場合には一昼夜食塩水に浸しておきエージングを行い,
  その後は常に清潔に保つようにすることが大切である.
  誘導コードは文字および色で弁別できるようになっているが,これは国によって異なる.
  心電図用ペーストをたくさん付けると,特に胸部誘導では隣の誘導との干渉が起こったり
  タコ球にペーストが吸い込まれて詰まるなどのトラブルの原因となるので必要最小量を皮膚に
  刷り込むようにして使用する.
  金属製のベッドは電磁誘導を受けるため,アースを取っておくことが必要であるが,
  木製のベッドではベッドにアースをつけても非伝導体であるのでムダである.ただし,
  絶縁シートをベッドとシーツの間に敷き,アースに接続しておくことが望ましい.

2−1. 心電計の誘導子のJISで定められている記号を書きなさい.
   a.右手 b.左手 c.右足 d.左足 e.胸部

 答: a. 右手 - R   b. 左手 - L   c. 右足 - RF   d. 左足 - F   e. 胸部 - C

2−2. 心電計の誘導子のJISで定められている色を書きなさい.
   a.右手 b.左手 c.右足 d.左足 e.胸部

 答: a. 右手 - 赤   b. 左手 - 黄   c. 右足 - 黒   d. 左足 - 緑   e. 胸部 - 白

2−3. 心電計を発明したのは誰か.
 答: Einthoven

2−4. 心筋の活動電位に関係のあるイオンを書きなさい.
 答: Na+   K+   Ca++   Cl-

2−5. 次の中で一番伝導速度が速いものはどれか.
   a.心房   b.心室固有筋   c.房室結節   d.心室内の刺激伝導系

 解説
  心室内の刺激伝導系(4000mm/sec) > 心房(1000mm/sec)
   >> 心室固有筋(400mm/sec) >> 房室結節(200mm/sec)

3−1.標準肢誘導法はいかなる電極の組み合わせによるものか.
  右の例のようにコードの記号を用いて書きなさい 例) RF → L

 答: 第T誘導( R → L )   第U誘導( R → F )   第V誘導( L → F )

3−2. ゴールドバーガー増大単極肢誘導法の誘導名を書きなさい.
 答: 右上肢の単極誘導( aVR )   左上肢の単極誘導( aVL )   左下肢の単極誘導( aVF

3−3. 胸部誘導のJIS識別色は白色であるが,便宜的にC1〜C6には識別のために
   もう一色が割り振られている.その色を書きなさい.
   注)日本で使用されている色を書くこと.

 答: C1( 赤 )   C2( 黄 )   C3( 緑 )   C4( 茶 )   C5( 黒 )   C6( 紫 )

4.心電図を構成する次の部分の始まりと終わりの位置を図中の記号を選んで書きなさい.


※ A,C,D,F,H,L,N,O,Q は基線との交点
※ B,E,G,I,M,P は頂点
※ J,K は変曲点
答:
P波 A )〜( C
Q波 D )〜( F
R波 F )〜( H
S波 H )〜( J
T波 K )〜( N
U波 O )〜( Q
PQ時間 A )〜( D
QRS時間 D )〜( J
ST部分 J )〜( K
QT時間 D )〜( N

5-1. 次の心電図波形で,矢印で示す不整脈の名称を書きなさい.

 答:A: 上室性期外収縮  B: 心室性期外収縮  C: R on T  D: 心室細動

5-2. 次の不整脈のうち,すぐに治療しなければならないものを選びなさい.
  a. 発作性上室性頻拍
  b. 頻拍性心房細動
  c. 心室細動
  d. R on T
  e. 多源性の心室性期外収縮
  f. 単源性の上室性期外収縮
答: c
解説
  致死的不整脈がすぐに治療をしなければならない不整脈である.
  心室細動は致死的不整脈であるのですぐに治療しなければならない.
  発作性上室性頻拍,頻拍性心房細動は心不全を招く可能性があり治療をする必要があるが緊急性は高くない.
  R on Tや多源性の心室性期外収縮は心室細動に移行する可能性があり,治療を要することが多いがそれ自体は致死性ではない.
  上室性期外収縮は生命予後に関与しないことが多く,多くは放置可能である.

6.アダムス・ストークス症候群の原因となるものはどれか(複数解)
  a.発作性上室性頻拍   b.洞性頻拍   c.心房粗動(4:1伝導)
  d.促進型心室固有調律   e.T°房室ブロック   f.完全右脚ブロック
  g.完全房室ブロック   h.WPW症候群   i.洞性徐拍   j.心室頻拍

 答: g. h. i. j.
 解説
  アダムス・ストークス症候群とは心拍出量の減少による脳の乏血症状のことである.
  すなわち,心拍の間隔が非常に長くなった場合(徐脈)も,極端に短くなり,心室が拡張する前に
  次の収縮が始まるような場合のいずれでもこの病態は起こりうる.
  WPW症候群はそれ自体の存在がアダムス・ストークス症候群を引き起こすわけではないが,
  心房細動を合併した場合,心室頻拍や心室細動と同じような血行動態を引き起こすため,
  注意が必要である.

7.心停止の原因,心停止をきたす疾患・病態として注意すべきものに ○ をつけよ.
  a.右軸偏位   b.左軸偏位   c. 右室肥大   d.左室肥大
  e.T°房室ブロック   f.完全右脚ブロック   g.完全房室ブロック
  h.甲状腺機能亢進症   i.甲状腺機能低下症   j.ジギタリス中毒
  k.高カリウム血症   l.低カリウム血症   m.右胸心
  n.発作性上室性頻拍   o.右房負荷   p.左房負荷

 答: g. i. j. k. l.
 解説
  非常に高度な甲状腺機能低下症では極端な洞性徐脈から心停止に至るものがある.
  ジギタリス中毒では致死性の心室性不整脈が出現し,心停止に至ることがある.
  高度な高カリウム血症は心停止に至ると言われているが,低カリウム血症では心室性の
  不整脈が起こりやすくなり,致死性の心室性不整脈から心停止に至ることがある.

8.正しいものに ○ をつけよ.
  a.左心室下壁は右冠動脈の灌流領域である.
  b.心尖部は左前下行枝の灌流領域である.
  c.冠動脈内径の50%程度の狭窄では労作性狭心症は生じない.
  d.心筋梗塞の発症には冠動脈内の不安定プラークが強く関与している.
  e.貧血が強いと冠動脈狭窄がなくても狭心症発作を起こすことがある.
  f. 急性心筋梗塞の発症した直後には異常Q波は見られない.
  g.異常Q波の出現する誘導で心筋梗塞部位を診断できる.
  h.運動負荷試験でST低下がみられても責任冠動脈は診断できない.
  i. マスター2階段法では体重が重ければ負荷回数は少なくなる.
  j. マスターダブルの負荷時間は180秒である.

 答:a. b. c. d. e. f. g. h. i. j. (全て正しい)

9.正しいものに ○ を,誤っているものには × をつけよ.
  a.被験者がゆっくり手足が伸ばせるようにキングサイズ(180×200〜210cm)のベッドを用いて心電図を撮る.
  b.心電図記録紙にエンドマークが出たらすぐに新しい記録紙に取り替える.
  c.次にすぐ心電図が撮れるように心電計の誘導子(電極)にはペーストを付けておく.
  d.3Pコンセント(右図)で電力が供給されているのは A である.
  e.心電計の紙送り速度には1〜2mm/秒の誤差があるのは普通である.
  f.胸部の誘導子のゴム球は中の空気を十分に押し出して装着する.
  g.心電図を撮る時にはノイズ混入を防ぐためシリンジポンプの作動は停止させる.
  h.心電図を撮る際,結婚指輪はノイズ混入の原因となるため,はずす必要がある.

 答: 全て ×
 解説
  幅60センチメートルの診察用ベッドでは手が落ちないように力が入ってしまい,筋電図混入の原因となるが,
  過ぎたるは及ばざるがごとし,幅の広すぎるベッドでは心電図電極の装着に苦労をすることになる.
  心電図のエンドマークは用紙の残りが2メートルほどで出るため,3〜5枚は撮れる.
  新しい用紙が心電計のそばにあるか,確認しておくことは大切である.
  ペーストに含まれる水分が蒸発し,電気抵抗値が変化するため,電極は常に清潔にし,
  ペーストは検査直前に必要最小限の量を付けるようにする.

10.正しいものに ○ を,誤っているものには × をつけよ.
  a.心音には高周波成分が多く含まれる.
  b.心音図の低音(L)の記録は膜型の聴診器で聞いた音のイメージに近い.
  c.心音図の中音(M)を記録する際に用いられているのはバンドパスフィルター(帯域濾波器)である.
  d.心雑音がある場合は必ず心臓に異常がある.
  e.T音の主成分は大動脈弁が開く時に出る音である.
  f.収縮期に始まる心雑音はU音より後まで続くものがあるが,拡張期に聞かれる心雑音は必ずT音の前で一旦とぎれる.
  g.心膜摩擦音は心内膜炎のときに聞かれる.
  h.僧帽弁狭窄症で聞かれる拡張中期ランブルを心音図で記録すると高音(H)にその特徴が良く現れる.

 答: 全て ×
 解説
  心音の周波数は数Hz〜100Hzで,心雑音は1,000Hzに達する.人工弁の閉鎖音は更に高い周波数が含まれる.
  心音図の低音記録はベル型の聴診器で聞いた音のイメージに近い.
  心音の低周波成分は強大であるので,心音図計に用いられているフィルターは全てハイパスフィルター(広域通過濾波器)である.
  心臓に異常がなくても貧血や発熱で心雑音が聴取されることがある.また,心臓に異常のない無害性心雑音もある.
  心音の主成分は弁膜の閉鎖音である.ドアを開けるときには小さな音しかしないが,閉じるときには大きな音がする.
  バルサルバ洞破裂や動脈管開存症で聞かれる連続性雑音は途切れることなく聞かれる.
  心膜摩擦音は心膜炎(心外膜炎)で,心嚢液が適量貯留した際に聞かれ,しばしば胸痛をともなう.
  拡張中期ランブル音は低いドロドロとした音なので,心音図の低音によく記録される.

11.正しいものに ○ を,誤っているものには × をつけよ.
  a.脈波は測定部位を血液が通過することにより生じる.
  b.頚動脈波の切痕Cは肺動脈弁の閉鎖によって生じる.
  c.駆出時間はT音の始まりからU音の終わりまでに要する時間である.
  d.正常頚動脈波は鶏冠状波形を呈する.
  e.心臓の収縮力が弱いと頚動脈波の頂点Pは高くなる.
  f.指先容積脈波は動脈の狭窄や閉塞により影響を受けるが,静脈が閉塞してもほとんど影響を受けない.
  g.脈波の末梢までの伝達速度は加齢によって遅くなる.
  h.指先容積脈波が平坦波であれば末梢性チアノーゼはみられない.

 答: 全て ×
 解説
  圧の変導を記録するものが脈波(圧脈波)である.
  頚動脈波は大動脈の圧脈波であるので,切痕Cは大動脈弁の閉鎖によって生じる波形である.
  鶏冠状波形を示すのは大動脈弁狭窄症である.
  頚動脈波の頂点Pは心臓からの駆出力を反映するので,大動脈弁狭窄症や左室収縮力の低下する拡張型心筋症では頂点Pは低い.
  静脈還流量の変動は指先容積脈波に影響を与える.静脈が閉塞すると末梢血管抵抗が上昇し,硬性波となる.
  動脈硬化により脈波の伝導速度は上昇するため,高齢者では若齢者に比べ脈波の伝導速度は速い.
  指先容積脈波が平坦であると言うことは,末梢循環が極めて悪い状態であり,このような状態では末梢性チアノーゼを認める.

12.正しいものに ○ を,誤っているものには × をつけよ.
  a.頚静脈波を撮るときには被験者の上体を少し起こす.
  b.頚静脈波を撮るときにはマイクがずれないようにしっかりと押さえる.
  c.頚静脈波は深吸気時に軽く息を止めて撮る.
  d.頚静脈波のA波は三尖弁閉鎖不全の時には消失する.
  e.頚動脈波は左心房の圧の変化を反映する.
  f.心房細動では心尖拍動図のA波はしばしば11%以上になる.
  g.心尖拍動図を撮るマイクの位置は左鎖骨中線第5肋間である.
  h.指先容積脈波の測定装置には遠赤外線がヘモグロビンに吸収されやすい性質が利用されている.

 答: 全て ×
 解説
  頸静脈圧は数cmHOであるので,上体を起こすと頸静脈が虚脱し,脈波は測定不能となる.
  また,同様の理由により,マイクはそっと当てないと波形の記録はできない.
  深吸気時に息を止めると胸腔内圧が上昇し,中心静脈圧(≒頸静脈圧)が上昇してしまう.
  このため,測定時には息を吸い込んだ後,少し吐いたところで軽く止めて測定する.
  頸動脈波≒大動脈圧であるので,左室収縮期圧を反映する.
  A波は心房の収縮を反映し,A波率11%以上は左房負荷所見である.心房細動では心房は収縮しないのでA波は認めない.
  心尖拍動図は心尖部にマイクを装着する.心尖部の位置は左鎖骨中線第5肋間付近にあることが多いが,個人差が大きい.
  指先容積脈波の測定には近赤外線が血中のヘモグロビンに吸収される性質を利用している.

13.正しいものに ○ を,誤っているものには × をつけよ.
  a.左室の動きを評価するのにはAモードエコーが用いられる.
  b.超音波は人体には無害であるのでエコー検査は何度行っても良い.
  c.小児の心エコー図を撮るときには2.5MHzのプローブを使用する.
  d.セクタ型よりコンベックス型の方がプローブ直下の視野が広いため,最近では心エコー図を撮る際によく用いられる.
  e.心房細動の時には左室流入血流波形ではA/E >1となる.
  f.経食道心エコー図は心尖部の観察に適した検査法である.
  g.左室拡張終期径が40mmで左室収縮終期径が36mmの心臓は正常である.
  h.心エコー図では最初に心尖部四腔断面で全体の様子を観察する.

 答: 全て ×
 解説
  Aモードエコーは距離に応じたエコーの強さを表わしたものであり,臓器の観察には用いられない.
  心臓の動きを評価するには,Mモードで計測するかBモード断層で動きをみる.
  結石の破砕に超音波が用いられるように,強度が強ければ人体組織に対しても超音波は有害であることを知っておくべきである.
  周波数の高いプローブの方が近くの解像度が高い(そのかわり遠くまで見通せない).
  このため,皮下組織には5MHz,小児の心臓には3.5MHzのプローブが用いられる.
  心エコー図は肋間操作をする必要があることから,コンベックス型は適しない.
  心房細動ではA波は存在しない.
  食道と左房は接していることから経食道心エコー図は心房や弁膜の観察に適しているが,心尖部は遠方であり,よく観察し得ない.
  左室径の正常値は計測値だけでなく,駆出分画(EF)も正常でなければならない.上の例ではEFは27%と極めて収縮力が低下している.
  基本的な捜査法は左室長軸断層像である.