心電図・心機図・心臓超音波検査 短文集
作成者: 病院情報部 和田豊郁
最終加筆日時: 2010/11/12 18:25
心電図と心電計の歴史
ヒトの心電図を最初に測定したのは Augustus Desire Waller(1887年)で Lippmann の毛細管電位計を用いていた.
Waller は四肢と口の5箇所に電極を付け,10種類の双極誘導を測定した.
Willem Einthoven が最初に心電図を記録したのは毛細管電位計を用いてだった.
Clement Ader が1997年に弦線電流計を発明した.
Einthoven は弦線電流計を用いた心電計を1908年に発表し,右手,左手,左足の組み合わせによる3つの誘導を定義した(T誘導,U誘導,V誘導).
Frank Norman Wilson と共同研究者たちは単極誘導法の不関電極として両手と左足の誘導に5kΩの抵抗を介して接続した中心電極を提唱した.
単極肢誘導はVR,VL,VFと呼ばれた.
1942年 Emanuel Goldberger は中心電極のうち測定しようとする肢の誘導をはずすと50%大きな信号が得られることを発見し,aVR,aVL,aVF誘導が生まれた.
1944年 Wilson らは前胸部誘導V1〜V6を定義した.
1966年 Mason と Likar は運動負荷時の筋肉の活動からの影響を最小限にするには四肢の電極を左右の鎖骨下窩と左の腸骨稜と右の腸骨窩に付ければ良いことを見出した.
心電計について
時定数とは校正用ボタンを押して0.04秒後に1mVを示した後,指数曲線を描きながら1/eの高さまで基線に近付いていくのに要する時間で,心電計の場合は3.2秒以上必要である.
時定数回路は基線の動揺を軽減させるために用いられている.
時定数は大きいほど増幅による歪みが少ないが基線が安定する時間は長くなる.
時定数が小さいとT波やU波の歪みを生じる.
入力インピーダンスは皮膚のインピーダンスより大きい.
心電図に含まれる周波数(0.5〜200Hz)が忠実に表現できる周波数特性を持つ.
※ 低周波の音波の周波数である.
10〜200Hzの音と振動の試聴はここをクリック
※ 単位は“Hz”.kHz(高音の音波〜超音波)でも,MHz(超音波〜電波)でもない!
低周波成分は増幅器によって定まる.
高周波成分は記録器によって定まる.
周波数特性で25Hzの感度が50%に低下するとQRS波は小さくなる.
※ 逆に,200Hzを超える周波数特性が悪くても影響はない.
増幅度は1000倍(60dB)以上必要である.
弁別比とは交流障害を抑止する能力である.
弁別比が1000(60dB)以上あれば交流障害を受けにくい.
誘導電極の金属面が新しいほど分極電圧は大きい.
誘導電極の金属面を磨いた場合エージング処理が必要である.
誘導電極のエージングとは電極表面に塩化物の薄い膜を付けることである.
誘導電極の金属面を磨いた場合食塩水に一晩付けておく.
金属の誘導電極は磨きたてでは分極電圧が大きくなるため基線の変動の原因となる.
心電計の入力インピーダンスは5MΩ以上必要である.
皮膚と電極との接触抵抗は数100kΩに達することがある.
皮膚と電極による分極電圧は500mVにも達する.
皮膚と電極の接触抵抗が低くないと(電気が流れる条件でないと)心電図が撮れない.
皮膚・電極間の接触抵抗を下げるために心電図用ペーストが用いられる.
シール式の電極には伝導性のジェル(ゲル)が使われており接触抵抗が生じない.
誘導電極とコードを接続したままにしておくと接続部で接触不良が起こる可能性がある.
単極誘導の関電極に対となる電極は不関電極である.
ウィルソンの中心電極(不関電極)とはR・L・F誘導にそれぞれ5kΩの抵抗を介して接続したものである.
ゴールドバーガーの不関電極は,ウィルソンの中心電極から該当する肢電極をはずしたもので,心電図波形の振幅は1.5倍になる.
右足の誘導RFは関電極としても不関電極としても用いられない.
誘導コードの識別はJISにて色と記号が決められている.
右手の誘導コードの識別色は赤で記号はRである.
左手の誘導コードの識別色は黄で記号はLである.
右足の誘導コードの識別色は黒で記号はRFまたはNである.
左足の誘導コードの識別色は緑で記号はFである.
胸部の誘導コードの識別色は白で記号はCである.
多チャンネルの心電計の普及にて標準12誘導すべての誘導を同時に記録する必要性から胸部誘導コードは6つ用意されることとなった.
胸部誘導コードC1の識別色は白+赤である.
胸部誘導コードC2の識別色は白+黄である.
胸部誘導コードC3の識別色は白+緑である.
胸部誘導コードC4の識別色は白+茶である.
胸部誘導コードC5の識別色は白+黒である.
胸部誘導コードC6の識別色は白+紫である.
胸部誘導の装着部位はV1〜V9,V3R〜V9R,VEがあるが,標準12誘導ではV1〜V6を撮る.
胸部誘導V1は第4肋間胸骨右縁でC1誘導電極を接続する.
胸部誘導V2は第4肋間胸骨左縁でC2誘導電極を接続する.
胸部誘導V3はV2とV4の中点でC3誘導電極を接続する.
胸部誘導V4は第5肋間と左鎖骨中線との交点でC4誘導電極を用いる.
胸部誘導V5はV4と同じ高さの左前腋窩線上でC5誘導電極を用いる.
胸部誘導V6はV4と同じ高さの左中腋窩線上でC6誘導電極を用いる.
『同じ高さの』は英語では horizontal level である.
臥位で 同じ水平面 では誤解を生じる恐れがある.
心電図は初期の段階では座位で撮っていた.
胸部誘導のV8〜9は後壁梗塞を検出するのに有用である.
胸部誘導のV5の位置は左鎖骨中線と第5肋間との交点であるV4と同じ高さの左前腋窩線との交点である.
四肢に欠損があるときには四肢誘導に吸盤式の電極を用いる.
四肢の誘導電極は肩や下腹部に装着しても波形にほとんど変化は生じない.
接地抵抗が高いと被験者の安全が確保できない.
接地抵抗は0に近ければ近いほどよい.
電気器具は電源スイッチを切るだけでは交流障害を防ぐ事ができない.
電気器具からの交流障害を防ぐにはその器具をコンセントから抜く.
電気毛布や電動ベッドの電源コードはコンセントから抜いて心電図を撮る.
被検者を保護するため右足の接地回路に5mAのヒューズが入れてある.
心電計の電源コードと誘導コードは束ねて使用しない.
心電計の電源コードと誘導コードを束ねて使用すると電磁誘導によるノイズが入る.
心電計の電源コードと誘導コードは交わらないようにする.
心電計の電源コードと誘導コードはできるだけ離す.
心電計の電源コードと誘導コードは平行に置くと交流障害の原因になることがある.
心電計の電源コードと誘導コードをどうしても交差させなければならない時は直角に交差させる.
誘導コードのシールドが切れると交流障害が起こりやすくなる.
誘導コードのシールドは電極にはつながらない.
誘導コードのシールドは心電計本体のアース端子に接続されている.
紙送りの速さは通常25mm/secが用いられる.
JIS標準感度では1mVは10mmとして記録される.
漏れ電流の許容値は生体が反応を起こす最小電流の1/10となっている.
最大許容電流は5mAであるが,最小感知電流が1mAなので,B型・BF型の検査機器の漏れ電流の許容値は100μAである.
ミクロショック(心室細動)は100μAで起こるため,CF型の心電計の漏れ電流の許容値は10μAである.
心内心電図を撮るにはCF型の心電計を用いる.
ヒス束心電計は通常の心電計よりも低周波側の周波数特性が良い.
ヒス束心電計はCF型の心電計である.
食道誘導を撮る場合にはCF型の心電計でなくてもよい.
食道誘導を撮る場合はBF型の心電計でもCF型のでもよい.
最近の心電計はほとんどがCF型となっている.
CF型はあらゆる心電図検査に用いられる.
食道誘導は胸部誘導の電極のいずれかを用いて記録する.
食道誘導は単極誘導である.
運動負荷について
マスター2階段試験では年齢と体重と性で回数が決まる.
マスター2階段試験では体重が増えると負荷回数は減少する.
マスター2階段試験では女性の方が男性より負荷回数は少ない.
マスター2階段試験では年齢と体重が増えると負荷回数は減少する.
マスター2階段負荷試験(シングル)の階段昇降時間は90秒である.
マスター2階段ダブル負荷試験の階段昇降時間は180秒である.
マスター法(=2階段試験)では運動負荷中の心電図や血圧の反応をみることができない.
負荷中に胸痛や下肢痛や気分不良やめまいが生じたら速やかに運動を中止し心電図を記録する.
緊急治療を要する状態になる可能性があり,医師の待機が必要である.
緊急治療を要する状態になる可能性があり,検査技師だけで施行してはならない.
トレッドミル法では運動負荷中の心電図や血圧の反応をみることができる.
トレッドミル法で一般的なプロトコルはブルース法である.
ブルース法は3分ごとに傾斜角度と歩行速度が上昇し負荷量が増える.
自転車エルゴメータ法は決められた一定の速度でペダルをこぐことで一定の負荷がかかる仕組みになっている.
自転車エルゴメータ法ではペダルの重さ(抵抗)を増やすことで負荷量を増やす.
自転車エルゴメータは自転車を漕いだことがない人はうまくべダルを回転させることができないかもしれない.
ホルター心電計について
ホルター心電計の電極装着部位はアルコール綿で皮膚表面の汚れや皮脂分を拭き取る.
ホルター心電計の磁気テープは再使用しない.
ホルター心電計のメモリーカードは繰り返し使用できる.
ホルター心電計装着中は日常と同様の生活をしてもらう.
労作性狭心症や運動時の不整脈が疑われる人は症状が出るような労作をしてもらう.
装着中に安静にしていると安静にしている状態での心電図しか分からない.
ホルター心電計の誘導は双極胸部誘導である.
NASA誘導は体動による基線の変移や筋電図混入が少なくP波も見やすい.
NASA誘導は電極を胸骨上端と胸骨下端に取り付けて撮った双極誘導である.
CM5誘導はV5誘導に似るが,体位変換によりQRSパターンが大きく変わることがある.
CM5誘導は電極を胸骨上端とV5の位置に取り付けて撮った双極誘導である.
CC5誘導は電極をV5RとV5の位置に取り付けて撮った双極誘導である.
ホルター心電図の記録と同時に血圧を測定できる機種もある.
※ ちなみに検査料(保険点数)は同額である.
ホルター血圧計はマンシェットの加圧に炭酸ガスボンベを用いており睡眠を妨げず静かに測定できる.
心電図について
心電図は0.5Hz〜200Hzの正弦波交流からなる.
電気軸は心臓の脱分極過程における前額面に投影した最大ベクトルである.
※ 『前額面』とは前額(ひたい)に平行な面,すなわち,正面とほぼ同義である.
電気軸は複数の肢誘導を用いて計算する.
増大単極肢誘導法では1.5倍の振れとなっているため,通常は双極肢誘導法の中から二つの誘導を選んで電気軸を求める.
電気軸は被験者の右から左へのベクトルの方向を0°と定義する.
電気軸は被験者に向かって時計回り方向をプラスと定義する.
正常な電気軸は-30°〜+110である.
※ 物理的に考えると0°〜90°であるが,その差の部分はグレーゾーンと考えられる.
I誘導とaVF誘導でR波がS波より大きければ正常軸である.
aVR誘導でR=SでaVF誘導でR>Sならば電気軸は+120°である.
I誘導でR=SでaVF誘導でR>Sならば電気軸は+90°である.
aVL誘導でR=SでaVF誘導でR>Sならば電気軸は+60°である.
III誘導でR=SでaVF誘導でR>Sならば電気軸は+30°である.
aVF誘導でR=SでI誘導でR>Sならば電気軸は0°である.
II誘導でR=SでaVF誘導でR
標準肢第 I 誘導は右手と左手の電位差をみる双極誘導である.
正常心電図ではP波はaVR誘導以外では陽性である.
正常心電図ではPQ時間は0.12秒〜0.20秒である.
正常心電図ではQRS時間は0.08〜0.11秒である.
正常心電図ではST部分は基線上にある.
正常心電図ではT波は I ・II・aVL・aVF・V2〜V4では陽性である.
胸部V1誘導で後半分が深い陰性を示すP波は左房負荷で見られる.
PQ時間が0.24秒であればT度房室ブロックである.
正常心では胸部V1誘導は通常rS波を呈する.
正常心の胸部V4誘導ではR波の高さの方がS波の深さより大きい.
移行帯とは胸部誘導でR波の高さとS波の深さが同じ誘導のことで通常V3誘導である.
移行帯がV1とV2の間にある場合は反時計回転である.
※ 別に間になくても良い.V3のR波の高さがS波の深さより大きければ反時計回転.
移行帯がV4とV5の間にある場合は時計回転である.
※ 別に間になくても良い.V3のR波の高さがS波の深さより小さければ反時計回転.
ジギタリス投与中は盆状のST低下が見られる.
左室肥大では左側胸部誘導でST低下が見られる.
右室肥大ではV1〜3でR波の増高とT波の陰性化が見られる.
低カリウム血症ではT波の平低化〜陰性化とQT延長が見られる.
高カリウム血症ではテント状Tが見られる.
低カルシウム血症ではQT時間が延長する.
高カルシウム血症ではQT時間が短縮する.
T波の頂点付近での心室性期外収縮(R on T)は心室頻拍や心室細動に移行しやすい.
QT時間が延長すると心室性期外収縮が出現したとき R on T になりやすくなる.
Romano-Ward(ロマノワール)症候群(常染色体優性遺伝)はQT延長を起こす疾患である.
低カリウム血症ではQT延長をきたす.
低マグネシウム血症ではQT延長をきたす.
抗不整脈薬だけではなく,向精神病薬,抗生物質などの一部にもQT延長がみられる.
アダムス・ストークス症候群とは心拍出量減少によって意識障害を起こすものを言う.
頻拍性不整脈も徐脈性不整脈もアダムス・ストークス症候群の原因となりうる.
意識障害は3秒以上の心停止により起こる.
洞停止,洞房ブロック,房室ブロック,心房細動など原因を問わず3秒以上の心停止が起こりうる.
最大心拍数(220−年齢)以上の頻拍になると心拍出量の減少が起こる.
WPW症候群はアダムス・ストークス症候群の原因になる.
徐脈性不整脈(心停止3秒以上)でアダムス・ストークス症候群を起こすものは人工ペースメーカの適応となる.
心室が十分に拡張しないうちに次の収縮が起こることが連続して起こるとアダムス・ストークス発作を起こす.
直流除細動器やAEDは頻拍性不整脈(特に心室細動)を停止させるものである.
※ 心停止状態は直流除細動器やAEDの適応ではない(効果がない).
虚血性心臓病
心拍数や血圧の増加によって胸痛発作が起こるものを労作性狭心症という.
就寝中など心拍数や血圧の増加と無関係に胸痛発作が起こるものを労作性狭心症という.
胸痛発作時に心電図上ST低下が見られるものを狭心症という.
胸痛発作時に心電図上ST上昇が見られたら急性心筋梗塞を疑うが,R波の減高や異常Q波を形成しない短時間の発作の場合は異型狭心症または切迫心筋梗塞と診断される.
心電図上ST上昇が起こって間もない頃を急性冠症候群という.
急性冠症候群には急性心筋梗塞も狭心症も含まれる.
労作性狭心症では発作時にST低下がみられる.
労作性狭心症は冠動脈の粥状硬化(プラーク)による冠動脈灌流予備能の不足によって起こる.
安静時狭心症は冠動脈の攣縮による冠動脈灌流血流の減少によって起こる.
異型狭心症は冠動脈の粥状硬化部位に冠攣縮が起こることによる.
異型狭心症は発作時に一過性のST上昇がみられる.
異型狭心症は心筋梗塞に移行しやすい.
心筋梗塞はST上昇部位あるいは異常Q波出現部位にて梗塞部位を診断する.
急性心筋梗塞のときに最初に見られる心電図変化はST上昇やT波の増高,次いでR波の減高,異常Q波の出現,冠性T波の出現へと経時的に変化が見られる.
急性下壁梗塞では四肢誘導 II・III・aVF誘導でST上昇が見られる.
急性前壁梗塞ではV2〜4誘導でST上昇が見られる.
急性前壁中隔梗塞ではV1〜4誘導でST上昇が見られる.
急性後壁梗塞では鏡面像としてV1〜3誘導でST低下やR波の増高,T波の増高がみられる.
急性側壁梗塞では I ・aVL・V4〜V6でST上昇が見られる.
急性心筋梗塞のときに生じた心電図異常が消失し正常心電図となる症例もある.
心筋梗塞の範囲が狭くても重症不整脈のために急死する危険性がある.
心筋梗塞の範囲が広いとポンプ失調にて急性心不全となる.
乳頭筋が梗塞領域に含まれると房室弁不全を合併し急性心不全となる.
全誘導でST上昇が見られるときには心筋梗塞よりも心膜炎が疑われる.
※ 全誘導といってもaVR誘導は心内膜側の電位を反映するため鏡像としてST低下となる.
心音図・脈波について
正常心では大動脈弁閉鎖が肺動脈弁閉鎖よりも早い.
正常心では大動脈弁開放よりも肺動脈弁開放の方が早い.
III音は心房から心室へ急速に血液が流入し心室壁が伸展することにより生じる.
IV音は心房の収縮により生じる.
心尖拍動図は左心房と左心室の容積変化を反映する.
心尖拍動図でa波率が11%以上のときa波の増高と言い,左室肥大のときにみられる.
僧帽弁狭窄症では心尖拍動図でa波率の増高がみられるが(重症化して)心房細動になるとa波は消失する.
三尖弁閉鎖不全症の頚静脈波ではa波が増高する.
肺高血圧症の頚静脈波ではa波が増高する.
心房細動の頚静脈波ではa波が消失する.
頚静脈波は仰臥位にて呼気が終わったところで呼吸を止めて測定する.
頚動脈波は仰臥位あるいは上体を少し起こして測定する.
心尖拍動図は仰臥位あるいは左側臥位で測定する.
大動脈弁閉鎖不全症の頚動脈波では二拍波が見られ切痕が消失する.
大動脈弁狭窄症の頚動脈波は鶏冠状を呈する.
大動脈弁狭窄症の頚動脈波ではシャダーが見られる.
レイノー病の非発作時の指先容積脈波では痙攣波が見られる.
レイノー病の発作時の指先容積脈波では末梢性プラトー波〜平坦波が見られる.
バージャー病の指先容積脈波では平坦波が見られる.
心電図Q波の始まりから心音図UAまでの時間を全収縮時間(Q=心室の電気的収縮開始,UA=機械的な収縮終了,Q-U時間)という.
頚動脈波で立ち上がり点から切痕Cまでの時間を駆出時間(ejection time,ET)という.
Q-U時間から駆出時間を引くと駆出前期(PEP)が得られる.
心拍数が影響するため,通常 PEP/ET として評価される.
心拍出量が減少する左心不全では PEP/ET が増加する(PEPが延長する).
大動脈弁疾患(=心拍出量が増加する)では PEP/ET が減少する(ETが延長する).
T音からU音までの時間(T-U)を機械的心室収縮時間という.
機械的心室収縮時間から駆出時間を引くと等容収縮時間(ICT)が得られる.
血圧脈波検査
心電計と心音計と血圧計(圧センサー)にて四肢の血圧の差・比,脈派伝達速度を計測する.
四肢の血圧の差や足首と手首の血圧の比(ABI)から動脈の狭窄状態が分かる.
健常人では上腕より足首の方が血圧はやや高い.
ABIが0.9未満であれば下肢動脈の閉塞の疑いがある.
ABIが0.8未満であれば下肢動脈の高確率で閉塞の疑いがある.
ABIが0.5〜0.8であれば下肢動脈に閉塞が一箇所ある可能性がある.
ABIが0.5未満であれば下肢動脈に閉塞が複数箇所ある可能性がある.
心臓から手足までの距離の差から脈波伝達速度(baPWV)を計算する.
動脈の硬化にて脈派伝達速度(baPWV)は上昇する.
加齢とともに脈派伝達速度(baPWV)は上昇する.
脈派伝達速度(baPWV)1400cm/秒以上では動脈硬化が疑われる.
運動不足にても脈派伝達速度(baPWV)は上昇する.
有酸素運動を継続することにより脈派伝達速度(baPWV)は低下することも多い.
脈派伝達速度(baPWV)は動脈硬化のスクリーニング指標となる.
脈派伝達速度(baPWV)は高血圧・高脂血症・糖尿病のマーカーとなる.
脈派伝達速度(baPWV)は老化の指標となる(血管年齢).
心エコー図
超音波検査は音波が組織密度の異なる面で反射する性質を利用したものである.
心エコー図は通常被験者を左半側臥位にして撮る.
心臓は肋間操作を行う必要があるため,Bモード断層法にはセクタ型のプローブが用いられる.
Mモード法は動きのある反射源の時間的変化をとらえるのに適した方法で,心腔の計測や僧帽弁の
動きの評価に用いられる.
経食道心エコー図では左房の詳細な観察をすることができる.
連続波ドプラ法では送信と受信は別の振動子で行う.
連続波ドプラ法では血流とビームの向きをほぼ一致させる必要があるが高速の血流速度を捉えることができる.
連続波ドプラ法では反射体までの距離を知ることができない.
圧較差は簡易ベルヌーイの式4×(連続波ドプラ法で測った流速)の2乗で求めることができる.
パルスドプラ法では血流を測定する部位の深さや角度を調節することができる.
パルスドプラ法はBモード断層像と同時に表示することができる.
カラードプラ法ではプローブに向かう速い血流は赤で表示される.
カラードプラ法ではプローブから遠ざかる速い血流は青で表示される.
カラードプラ法でモザイク様に表示されるものは血液の乱流である.
僧帽弁前尖後退速度(DDR)とは僧帽弁前尖が最大開放より後退する早さで僧帽弁狭窄症のとき低下する.
プローブ
骨や肺を通しての臓器の観察はできないため心臓超音波検査にはセクター型のプローブが用いられる.
周波数が高いほど指向性が良くなり分解能も良くなる.
周波数が高いと到達距離が短くなるため,大きな臓器の観察には向かない.
甲状腺や乳腺や体表面血管の観察には10MHzのプローブが用いられる.
成人心臓の観察には2.5MHzのプローブが用いられる.
小児の心臓の観察には3.5MHzのプローブが用いられる.
10MHzのプローブは深部までの観察はできないので,心臓の観察には適しない.
超音波のアーチファクト
音響陰影とは強い反射体(骨,石灰化など)の後方に超音波が届かない現象である.
後方陰影増強(音響増強)とは超音波の減衰の少ない組織(嚢胞,心腔,胆嚢のような水が主体の組織)の後方が白く写る現象である.
多重反射とは組織の境界で超音波の反射が繰り返すもので等間隔のエコーが表示される.
レンズ効果は音響インピーダンスの異なる組織に超音波が斜めに入射したときに発生する.
鏡像(ミラ−イメージ)は肝内の腫瘍などが横隔膜の上下にあるように見える現象である.
サイドローブは近くの消化管ガスや結石などによって生じるため,プローブを回転させると消える.
肋軟骨が石灰化すると音響陰影が発生しやすく心臓の観察が不十分となりやすい.
胸壁と心膜との間で多重反射が起こると像が不明瞭となり観察が不十分となる.
肥満者では皮下脂肪のため超音波の乱反射のため観察が不十分となる.
肺気腫では心臓の前面に肺が覆いかぶさっており観察が不十分となる.
頚動脈エコー
頚動脈は頭蓋内へ血液を送る重要な血管であり狭窄により脳血流が減少する.
頚動脈プラークの破裂により脳梗塞が発生する.
糖尿病があると動脈硬化は進行しやすい.
頚動脈は全身の血管の状態をも反映する.
頚動脈に狭窄があると冠動脈にも狭窄がある可能性が高い.
IMT(内中膜複合体厚)値 1.1mm以下が正常である.
年齢とともにIMTは増加するため,血管年齢が算出される.